~リハ中~
ボーカルの返しもっと上げてください。
はいー、じゃあいちどいっぱいまで返してみますね。
~演奏して確認~
ボーカルのモニターもっと返してもらえませんか?
声も小さめなので、ちょっとこれ以上上げるとハウってしまって難しいので、できるならもう少し声を張って歌うか、オンマイクで歌ってみてもらってもいいですか?もしくは楽器の音量を落とすか…
いや、声が歪んでもいいのでゲイン上げてください!
!!!
リハーサルの際にこんなやり取りを経験したことがあります。
PAといえど、大規模な現場ですべてデジタル伝送で素人ではとうてい手が出せないものから、練習スタジオなどで使われるアナログミキサーなどで手軽で身近なPAまで様々なものがあります。
バンドマンであればスタジオ練習の時にミキサーを必ず操作すると思いますので、どうやったら音が出るなど簡単な操作方法は理解していると思います。
しかし、ライブ音響となるとただ一つのスピーカーから音を出すだけではなく、モニターだったり、今では配信だったりとあらゆる条件下のもとで最適になるようミックスを行うので簡単なものではなく、いろいろな要素の中で均衡が取れるように考えなくてはなりません。
もちろん、アーティストが知らなくていいのかもしれませんし、PAはそれが仕事なので技術者側が対処すればいいのですが、ある程度、共通の話ができる方がよりよいものを作れることは間違いないと思っています。
料理人に「甘い味が好きだからこの料理に砂糖ドバっとぶっかけてよ!」っていうより、「甘い味が好きなので好みになりますかしら?」といえば砂糖を使わずに生クリームを使ったりみりんを使ったり別の方法でよくしてもらえそうじゃないですか。
そんなわけで、なぜ私が「!!!」となったのかを解説していこうと思います。
音響の間違った理解は最悪、機材の破損にも繋がりかねないので少し勉強してみましょう。
知らなくて当然、知らなくても構わないけど、知っているとだいぶ強い
良いライブを作りたい
そう思うのはアーティストもPAも同じです。
ならば、一緒に意思疎通をしてイメージを共有して作り上げるのが一番です。
その意思疎通を図るために最低限のPAの知識を持っていたほうが捗るのです。
決して強要するわけではありません。PAはPAの仕事としてアーティストに何も言われず満足できる仕事をして良いライブを作れたらそれはベストです。
しかし、なにか要望があった時に、その希望と音響的な制約でバランスを取らざるを得ない場面が出ることがあります。
どちらかが譲歩する、またはどちらも100%の希望を50%に抑えるなどすり合わせが必要になるのです。
大物ミュージシャンで、自分の好きなようにやるためにスタッフは全部自分のお抱えで回しているのならその限りではありませんが、スタッフとしては意見交換ができないのは辛いものです。
音響の勉強をしてきたPAと同じステップの話をできるようにしようという話ではなく、最低限の知識があればリハーサルや本番中でも「こうした方が音が良くなるだろう」という行動や提案ができるのです。
それはPAにとってもありがたく、PAが何もしなくてもフェーダーを上げただけで既にバランスがとれていて良い音になっているといった状況が生まれます。
そもそも、「必要最低限の音響知識があったら得するよ!ちょっと勉強してみようや!」っていうのがこのサイトのコンセプトでもありますのでちょこっと勉強してってくださいな!
そもそも歪むと何が起こるか
まず上のやり取りであった
「声が歪んでもいいのでゲイン上げてください!」
というところです。
なんで「!!!」となったか結論から言いますと、歪むとハウりやすくなる=モニターに声が返せなくなるからです。
スタジオなどでミキサーを使っていて声が小さいなと思ったらGAINのつまみを上げれば声は上がります。きっとそういった経験から「GAIN上げれば大きくなるでしょ?なんでやらないの?」って感覚だと思うのです。
歪み(”ゆがみ”じゃなく”ひずみ”です)という概念も、最近ではレコーディングなど宅録でも簡単にラジオボイスといった歪みエフェクトをボーカルにかけることもできます。
激しいサウンドなら歪んでいる声がかっこいいというのも理解できます。
しかし、ギターをエフェクターなどで歪ませること考えてみてください。
ディストーションやファズで音を歪ませるとハウリングを起こしやすくなりますよね?
周波数特性など音響的な細かいところは知らなくてもいいのですが、アーティストでも知っていた方が良い点として歪む=ハウりやすくなるというところなんです。
ここでモニターへの返しに話を戻すと、モニターにはハウらないようにできるだけ聞きやすく良い音で返したいわけです。
その点に置いて、歪むというのはハウりやすくなる+基音がわからなくなるという二大デメリットがあるのです。
モニターの返しを大きくすることと歪ませることは相反することなんですね。
それでも歪ませたエフェクトをモニターしたいとなると、もうモニタースピーカーで対応することができなくなるのでイヤモニが利用されることになります。
しかし、イヤモニにはあらゆる注意点があります。
個人的にイヤモニはライブをすることに慣れ、モニターの調整も演奏のコントロールなどそつなくできる上級者がステップアップする際に使うものとしたほうが良いという考えです。
詳しくはこちらを御覧ください。
イヤモニの話は置いておいて、歪みが起きるとモニターは返しにくくなるということを理解してもらえたらと思います。
モニターをチューニングすればハウらないという考え
アーティストの方も【モニターチューニング】という言葉を聞いたことある方も多いと思います。
PAがモニターの前で「テス・ワン・トゥー」と一人で喋って満足げな顔でPA卓に戻っていく姿を見たこともあるのではないでしょうか。
PAはモニターがハウらないように予めハウりやすい部分をカットしてできるだけの調整をしているのです。
だからハウるのはPAの腕が悪いだけだろ!責任を押し付けんなよ!
おっと、モヒカンくんがいきなり登場しました。
確かに腕が悪いという可能性も否定はしません。しかし、多くのバンドがその設定でできている状況でハウるのであればそのバンドだけ特有の事象があるということです。
そして、いくら完璧にチューニングされていても音量を上げていけば必ずハウります。
ハウらないようにチューニングするわけですが、
ハウる→そこをカット→音量を上げる→ハウる→そこをカット→音量を上げる…
と繰り返したら、ただ音量が下がっていくだけなんですよ。
そしてモニターとして肝心である聞きたい部分まで削ってしまうことになります。
PAのモニターチューニングというのは演奏している時に聞きたい部分を残しつつハウリングをなくすという作業なんです。
チューニングだけですべてのハウリングを抑えられるわけではなく、モニターは無限に音が返せるものではないということは覚えておいてもらいたいです。
モニターからしっかり自分の求める音を聞くには
PAが文句言ってるだけじゃねーかー!とモヒカンくんに怒られそうなので、ちゃんと解決策もご提案致します。
まず、モニターの返しが聞こえないということですが、聞こえないのはなぜか考えていきましょう。
聞こえない理由その1 モニターが小さい
モニターの返しの音が小さくて聞こえない。これは誰でも上げたほうが聞こえやすくなるのは考えずともわかることなので、みんな上げてくださいとオーダーしますよね。
まだ上げられる余力があるのなら上げてもらいましょう。
しかし、極力モニターを少なく演奏できるのならばそれに越したことはありません。
モニターから出る音も客席に漏れています。その音は外音の濁りに繋がります。
モニターを大きく返すと何が起こるか、声が小さくボーカルマイクに他の楽器の音がたくさん入ると客席向けメインスピーカーの音はどうなるのか、そんなことを解説している記事も書いていますので合わせてご覧ください。
できることなら大きい声で歌うのが何よりの解決策です。
そしてマイクを握っちゃったりしたらモニターは返せなくなります。
なぜそうなってしまうかは下記の記事に詳細に書いてあります。
返したくても返せない、マイクを握っているから。握ってパフォーマンスをしたいのならモニターが小さくてもできるように努力しよう。
聞こえない理由その2 聞き取りづらい音色
モニターに音を返していて鳴ってるんだけどなんか芯がない、キレが悪く聞こえる、音がモヤッとしてる、など音は出ているけど聞き取りづらいそんな時は音作りを変えてみましょう。
人の声でもアナウンサーのようにハキハキと聞きやすい声と、こもったような聞き取りづらい声などもあるように輪郭のない音作りだとモニターにもそれが反映されてしまいます。
これはPAに「もっとくっきりとした音色にすることはできますか?」と相談することで解決することもありますし、ギターやベースなどではアンプのEQではっきりした音に変えてみるのも解決の道かもしれません。ドラムならチューニングをしてみましょう。
声に関しては生まれ持ったものだからどうしようもないだろう…!とお思いかもしれませんが、自分の声質に合ったマイクをチョイスしたりマイクとの距離感や口の被せ方次第で音色をコントロールすることで解決できるかもしれません。
ボーカリストがマイクと向き合うことは重要です。
マイクはすべてPAがコントロールするものと思いがちですが、マイクに入る声に関してはアーティストがコントロールすることに他ならないんです。
マイマイクの重要性はこちらに書いていますのでぜひボーカリストは読んでもらいたいです。
マイクとの距離感を掴むことが技術面で超重要。こちらもご覧ください。
ギターボーカルやキーボードボーカルで楽器を演奏してたらマイクに集中できなくなっちゃうんだよ~って方もご安心ください。下にそんな方向けの記事もご用意してありますよ。
楽器に集中して口とマイクが離れると大損だよ!楽器の演奏とボーカルを両立する方法!
聞こえない理由その3 他の音が大きい
モニターをしっかり返していても聞こえないということは他の音が大きいことが考えられます。
日常生活に置き換えて考えてみましょう。
踏切の前で友達とおしゃべりしていたとします。
普通に会話しているなか電車が通ったら声が聞こえなくなりますよね。
その時どうしますか?
電車の音に負けないくらい友達の耳元で大きい声で叫びながら会話を続けますか?
それとも踏切から離れて普通の声量で話せる場所へ移動しますか?
ではライブハウスに話を戻しましょう。
ステージ上で他の楽器が爆音で鳴っているのはライブハウスでは当たり前ですよね。
その中でモニターが聞こえないとしましょう。
さあどうしましょう。
うるさい中、聞きたい音をさらにうるさい音量で返すとどうでしょう。
そうです、死ぬほどうるさくなります。
踏切を通る電車の運転手さんに「ちょっと会話してるんで静かに電車走らせてもらえます?」とは言えないけれど、バンドメンバーに「ちょっとボーカル聞こえづらいんで楽器下げてもらえます?」は現実的じゃないですか。
無音の中でモニターを鳴らしたらすごく大きくしっかり鮮明に鳴っているんです。
その音を聞きづらくするか聞きやすくするかは他のステージ上の音の音量バランスでコントロールできるのです。
聞こえないものを大きくするという考えを一度忘れたほうがいい結果になることが多いです。
聞こえ過ぎているものを小さくするという考えを持つようにしましょう。
これが一番の解決策です。
もしかしたらモニタースピーカーを間違った使い方で使用していてモニターがうまく聞こえていないという可能性もあります。
そんなことについて詳しく書いた記事もありますのでこちらもご覧ください。
過去記事をたくさん紹介しましたが、逆を言えば答えは過去記事に全部あるということですね。
音響の難しい論理がわからなくたって、モニターが聞こえないくらいなら基本的な音の考え方さえできれば簡単に解決しちゃうことなんです。
新たに歪みという要素についても理解してもらえましたでしょうか。
音というものを間違った認識で取り扱うと、良いライブを作るという同じ目標であるPAとのやり取りも難しくなる場面が生まれてしまうことと、何よりスタジオなどで音響機材を扱う際に破損にも繋がるので基礎くらいは学ぶのは大事かと思います。
知識があればそれは必ず良いライブの糧になります!レッツ勉強!
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